2008年04月27日

西域一九九九年 14 西安へ

七日目
 航空機で西安に向かう。天山山脈の白い高峰が連なって美しい。この万年雪が砂漠の民の命を支えている。

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 西安空港の二階で昼食である。Sさんがビールを二本頼んだ。ウェートレスに百元を渡したが、かえってきたお釣りが違っている。ウェートレスに言うとレジに行くよう指示する。レジに行くと金額を確認しないうちに差額を渡してくれた。
 承知していたらしいウェートレスは、困った顔をして向こうの部屋に行ってしまう。組織ぐるみの犯罪だったのだ。
 このようなことは旅行社や市がきちんと対処しないと、西安の評判を落とし、添乗員が一人で苦労することになる。

 西安では添乗員以外に男性のガイドがついた。
「始皇帝は世界で最も宝物を集めた人で、陵の中の宝物は、二千メートル四方五百メートルの高さの建物でないと収納できません。以前日本から建物を造ってやるという申し出がありました。条件として、『出てきた宝物のうち半分を日本にくれ』と言われたので、『中国の宝は一つもやりません』と断りました」
「そんなこと誰が言ったのですか」
 わたしは大声で訊いた。このときのわたしの声は、かなり尖っていたことを自覚している。ぴりぴりした両国関係の中で、国としてそのような要求などするはずがない。中国政府も準備が整うまで発掘はしないと明言している。また西安市の独断で決められることではない。たとえば田中首相は医師団の必死の介護で生きて帰国できたという状態(A新聞記者談)から間もない頃に、首脳会談でそんな要求を出すはずがないではないか。
 ガイドは驚いた表情をして横を向いて黙ってしまった。わたしが更に言いつのろうとしたとき、Sさんに止められた。車内はシーンとしている。しばらくしてガイドは別な話を始めた。
 陵よりも大きな品物が陵の中にあることがどうして判るのだ。兵馬俑でさえ最近発見されたばかり、陵の中は未調査のはずである。すべてはあるらしいという推測である。
 未調査ではあるが、当時の日本人の常識では陵内は空と思われていた。陵は完成後間もなく、項羽軍によって徹底的に荒らされている。十万人が一ヶ月かかって宝を運び出したという。兵馬俑も、発掘されたときは、うち捨てられたようにでたらめに重なっていた。持っていたはずの武器などの金属類はほとんどない。模型もない。わたしは荒らされた跡であると思った。
注:調べてみると、金属類は別に収納してあるという。また、最近の研究では、項羽軍に荒らされたという話は創作らしいという。中は未盗掘の可能性が高い。
 これも「愛国虚言」の一環であろうか。それとも「歴史創作」か。

八日目
 前日の腹立ちをこの日まで引きずっていたが、昼食の時に忘れることができた。わたしたちのテーブルの係りになった若い女性は、かなり日本語がうまかった。
「わたしの専攻は日本語です。日本語の勉強のためにこのアルバイトをしています。だからこの仕事が好きです」
 そう言い切って積極的に会話に応じた。旅行者に土産物を勧めたときも、皆その品をすでに買ってしまっていたことを知ると、気の毒がる旅行者たちに、逆に気を使っていた。言葉だけでなく、心遣いまで学んでいる。わたしとこんな話をした。

「(あなたはどこで日本語を学んでいますか)」  
「(西安外国語学院です)秋から三年生です」
「(これはインディカ米でしょう)」
「(そうです)」
「(米の値段を知っていますか)」
 ちょっと恥ずかしそうに笑って答えた。
「(知らないんです)」
「(米を買ったことないんですか。食事を作ったことも)」
「(作りません)いつも外食しています」
「よく中国の学生は丼を持って歩きながら食事をしていますが、あなたは」
「きちんと椅子に座って食べます」
「(ふるさとはどこです)」
 わたしの飲んでいるビール瓶を指して言った。
「(ここです。宝鶏)西安から約二時間です」
( )内は中国語である。
 好きですと言ったように、顔が輝いている。この娘には西安空港のウェートレスには絶対に味わえない働く喜びがある。それは旅行者に安らぎを与える。

追記 この学生は翌年三月に鈴鹿の大学に国費留学した。6人の私費留学生と一緒であった。
「6人は日本語1級に合格しているけど、わたしだけまだ合格していない」
卒業後の予定について、
「わたしは日本語の先生になることが決まっています」
どこの学校、
「西安外国語学院(母校)の新入生の発音の先生ですよ」
 大学に入ってから日本語を学び(高校の時にも発音程度はかじっていたであろう)、三年の時には、発音の先生として大学に残ることが決まったという。電話で話をしていても、中国なまりの全くない、きれいな発音だった。
posted by たくせん(謫仙) at 07:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 西域一九九九年 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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