2012年04月12日

西遊記1

西遊記1
中野美代子 訳   岩波書店   2005
 本の紹介を 雲外の峰−西遊記 に書いた。
 こちらは細かい内容の紹介である。ネタバレなど気にしないで書く。時間がたって忘れたころに思い出すためのメモである。
 この本は全十册百回の物語。李卓吾本の全訳である。李卓吾本とは本の名前で著者ではない。清代には、作者は長春真人丘処機説もあった(^_^)。
     saiyuuki1.jpg

 第一回
 第一回はかなり「書庫」と重複する。
 中国の物語なのに、この世界は仏教の倶舎論の世界を展開していて、インドの地理概念と中国の地理概念が入り交じっている。
 さても本書は、このうちの東勝神洲のお話です。
 これは単なる間違いではなく、意図的にこうしたらしい。
 須弥山と極楽 にもあるように、この世界は、中央に須弥山(しゅみせん)、東に勝身洲(しょうしんしゅう)、南に贍部(せんぶ)洲、西に牛貨(ごけ)洲、北に倶廬(くる)洲が有る。
 勝神洲ではなく勝身洲である。
 そして南の贍部洲(閻浮提(えんぶだい)ともいう)が、我々の住む世界である。

 東勝神洲で石から猿(正しくは猴(コウ))が生まれた。長い時間がたって、石ザルはサルと共に生活し、花果山の滝の裏の水簾洞府を見つけ、サルの群れの王者となって美猴王となのる。
 ここで疑問が生じる(^_^)。石ザルはサルの群れで暮らしていた。「花果山福地 水簾洞洞天」と書かれた石碑を見つけて、それをすらすらと読む。それで水簾洞府というのだが、いつ字を憶えたのだろう(^_^)。
 それから数百年のち、不死を願って南贍部洲の古洞仙山を目指すことになる。筏に乗ると東南の風が吹き、西北の岸、南贍部洲につく。
 ここで上に書いた地理の話。南贍部洲は南西なので北西に行ってはたどり着けない(^_^)。
 ちなみに距離的には二百万キロ以上。物語では距離には言及していないので問題ではないが、どの程度の距離と考えたか。
 南贍部洲で七八年たったが古洞仙山が見つからず、また筏を作り西海をただよって、西牛貨洲に着くことができた。そこで霊台方寸山斜月三星洞を見つけ、仙人に弟子入りする。孫悟空の名をつけてもらうことになる。仙人は須菩提(仏陀の十大弟子の一人)。
 文の所々に詩や詞が入る。これは意訳で、原詩詞とは異なる。これも小説の一部だが、斜め読みでも差し支えないだろう。

第二回
 ここでは師匠からさまざまな術を教わる。他の弟子より見込まれたのか、悟空だけが教わる技が多い。觔斗雲の術もある。觔斗とはとんぼがえり。一度で十万八千里(明代1里=560m)を飛ぶ。地球一周より長い。このあたりの悟空はかなり頭脳怜悧で、並みの人間より頭がいい。
 兄弟子を師兄(スヒン)と言っている。
 術を師兄たちに見せたため、破門のような形で故郷に帰ることになる。故郷を出てから二十年たっていた。
 故郷のかつての部下たちは、水簾洞府を守るため妖魔の混世魔王と戦っていた。混世魔王を退治し、水簾洞府に平和が戻る。

第三回
 水簾洞府を守るサルたちに竹槍などではなく本物の武器を持たせようと、近くの傲来国から武器を奪う。自分用には東海竜王から如意棒(如意金箍棒にょいきんこぼう)を貰う。重さは一万三千五百斤(七千トンくらいか)。その昔、夏王朝の始祖の禹が治水の重りに使ったという。この如意棒は自由に伸び縮みできて、耳の中に収めている。もちろん仙力で持っているのであって、筋肉で持っているのではない。筋肉では、足場がこの重さに絶えきれず崩壊してしまうだろう。
 ここで六兄弟に出会う。牛魔王(ぎゅうまおう)・蛟魔王(こうまおう)・鵬魔王(ほうまおう)・獅駝王(しだおう)・獼猴王(びこうおう)・ぐ絨王(ぐじゅうおう)。おそらくのちに再登場するはず。
 そして冥界(閻魔大王の所)の森羅殿に乗り込み、生死簿から自分たちの名を抹消してしまう。
 悟空は齢三百四十二歳で終わることになっていた。この年がその年齢であった。
 東海竜王たちは玉帝に訴える。天界では、悟空を天界に呼んでおとなしくさせようとして、太白金星をつかわす。

第四回
 天界に誘われた悟空は、太白金星より先に天宮に飛んで行ってしまう。門を入ろうとしてもめるのだが、飛んで行ったのにわざわざ門前に降りて、門から入ろうとするのはどんな意味だろう。礼儀や権威のためか。玉帝の宮廷も礼儀作法は人界と同じ。
 悟空は弼馬温(ひつばおん)となって馬の世話をする。半月後、最低の位であると知って、水簾洞府に帰ってしまう。帰ってみるとすでに十数年たっていた。
 天界の一日は下界の一年。これは何の意味があるのだろう。一万年生きたとても体感的には一万日。下界のことに玉帝が首を突っ込んでも、いつも手遅れになりそう。
 悟空は斉天大聖を自称する。
 あらためて、悟空逮捕を命じられたのが、托塔李(たくとうり)天王とその第三子の哪吒(なた)三太子。
 水簾洞府の近くに陣を構える。ここで戦いになるのだが、両方の大将同士の一騎打ちで終わる。これなら軍を連れてくることはない。
 京劇のやり方に近い。京劇では背中の旗で何千人とか何万人とかの軍をあらわし、一騎打ちのようでも何万の軍の戦いを意味する。
 悟空逮捕に失敗した玉帝は、さらに強力な遠征軍を送ろうとするが、太白金星が「斉天大聖にして飼い殺しにする」ことを提案し、悟空を迎えに行く。

第五回
 悟空は斉天大聖に任命され、斉天府に住む。といっても仕事はなく、遊び暮らしている。
 問題を起こすといけないので仕事を与えることになり、蟠桃園を取り仕切ることになる。
 この蟠桃とは三種あり、例えばその一種は九千年に一度みのり、その身を食べると不老長寿になるという架空の桃だが、現実に蟠桃という桃がある。ザゼンモモ(座禅桃)といい、押しつぶしたような平らな形をしている。
 この九千年はおそらく人界の暦だろう。それでも天界の暦で九千日。
 悟空はこの 蟠桃を食べてしまったりする。西王母が瑶池で蟠桃勝会(ばんとうしょうえ)を開くため、仙女に桃の実を採りに行かせると、九千年に一度みのる桃は悟空に食べ尽くされている。
 悟空は自分が招待されていないと知ると、会場に先乗りして、食い荒らしてしまう。あとで大変なことをしたと思い、水簾洞府に逃げてしまう。ついでに酒も盗みだし、水簾洞府のサルたちに与える。
 玉帝は十万の天兵を動員し、天羅地網で花果山を取り囲む。

第六回
 今回の戦いは全面戦争で大将の一騎打ちではない。一度は追い払うが、顕聖二郎真君が派遣されて、悟空軍は負けてしまう。逃げ回っているとき、太上老君によって、金剛琢(こんごうたく)を頭に嵌められてしまう。
 天宮では、玉帝が「二郎真君を派遣して1日たつが…」と言っている。しかし下界でも1日しかたっていない。下界の一年が天界の一日という設定がすでに崩れている。おそらくこれ以降は下界と天界も同じになるのではないか。
 二郎真君は楊戩(ようぜん)の名を持つ。封神演義や長安異神伝(井上祐美子)でも活躍するが、北宋に実在した人物の名という。

第七回
 悟空は死刑になるはずだが、どうされても死なない。太上老君によって八卦炉に入れられても煙で目が「火眼金晴」になった程度。八卦炉が開いたとき、逃げてしまう。
 玉帝は如来に悟空退治を依頼する。如来は自称「釈迦牟尼尊者つまり南無阿弥陀仏」(自称に尊者はおかしいし、釈迦牟尼と阿弥陀は違う)という。
 ここで、悟空が地の果てと思える所まで行って五本の柱に文字を書いて帰ってくると、それは如来の指だった、という話があって、五行山で押さえつけられてしまう。ここで三蔵法師を待つことになる。

第八回
 如来は霊鷲山(りょうじゅせん)雷音寺に帰り、500年たつ。東土は唐の時代となる。三蔵(法・論・経)(正しくは法・律・論)の経典をつくり、東土から取りに来させようとして、観音を派遣する。観音は取教の道を探るため、地上に近いところを通った。
 途中の弱水で醜い妖怪に会う。帰依させて沙悟浄と名乗らせる。もとは捲簾大将。
 高い山で兇悪な妖怪に会う。帰依させて猪悟能と名乗らせる。もとは天蓬元帥。
 刑を受け、空中で泣いている龍に出会う。玉帝にねがい貰い受ける。西海竜王のせがれ。のちに三蔵法師の馬となる。
 五行山で孫悟空に出会う。帰依させて、三蔵法師のお供になることを約束させる。
 三蔵法師の三人のお供と乗る馬を得る。

   …………………………
 中国に猪(ブタ)という姓はないそうだ。わたし(謫仙)の知り合いに「猪瀬◯」という人がいる。中国では「姓は猪瀬、名は◯」と自己紹介し、手紙には「猪瀬 ◯」と書いて出すのだが、中国人からは「猪 瀬◯先生」とか「猪先生」と書いてくる、と嘆いていた。
posted by たくせん(謫仙) at 07:24| Comment(2) | TrackBack(0) | 武侠世界 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「猪」姓については西遊記についての解説か何かで読んだ覚えがあります。
元々「朱」姓であったものが、作品として大成された明の頃にお上の「朱」姓と同じでは差しさわりがあるので同音の「猪」になったのだとか…

面白いですよねぇ。
Posted by 煙管好き at 2012年04月12日 08:03
煙管好きさん
巻末にそのような説明がありました。それでこの話を思い出したわけです。
ただでさえ、国姓をはばかるのに、あの恐怖の朱元璋を始祖とする明朝ですから、八戒に朱姓を使うわけにはいかなかったでしょうね。
それでも、こんなとてつもない物語を創作できるエネルギーがあったのですから、たいしたものです。
Posted by 謫仙 at 2012年04月12日 15:49
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