2009年02月15日

書剣恩仇録 六和塔の料理

 袁枚の肝煎りで杭州の花魁の人気比べが行われた夜、一番になった玉如意の部屋に行った乾隆皇帝は、紅花会に掠われ六和塔に幽閉される。
 そこで、紅花会は乾隆皇帝をさんざんいたぶるのだが、それは料理を見せても食べさせないというもの。
   07.10.14 475.jpg
 以下、赤字は原文通り、黒字はわたしが省略しながら説明しているもの。

 一晩たって、乾隆は腹が減っていた。そこにソバを食っている音がする。そして山盛りの「海老入りソバ」が五尺ほど離れたところに置かれ、箸も入っている。
「それはお前のだ。毒は入っておらん」
 そう言われて食べようとしたが、一糸まとわぬ裸であった。思わず布団に戻ってしまうと、
「畜生め、毒が怖いか。俺が食ってみせてやる」
と、食べられてしまう。
 その後、さんざん脅かされ、昼になると、別な者が飯を食いながら脅しの文句を並べている。そして夕刻には、常氏双侠が来た。そして酒を飲みながら、江湖の仇討ちの話をする。間接的な脅しである。それを明け方まで語り合っている。その間、乾隆は何一つ食べていない。
 二日目、趙半山が来た。

「ならば、とりあえず何か腹を満たすものをくれ」
   −略−
「陛下が御膳を所望だ。早く酒席を整えろ」

 それから二刻。二刻はどのくらいの時間だろう。現代なら三十分だ。食卓に案内される。態度は慇懃だ。酒を出されるが、飲む前に、皇帝がこんな酒を飲むかと、料理人か叱責された。すぐに町までいい酒を買いに行くという。もちろん杯は空にされて、待たされる。六和塔から町まで5キロくらいかな。かなり時間がかかりそうだ。
 そして、紅花会の者は酒盛りを始め、乾隆の杯は空のまま。そして料理が出る。
 湯気の立つ料理が四皿運ばれる。
「海老の炒めもの」「骨付き肉の香辛料炒め」「魚の甘酢あんかけ」「鶏の唐揚げ」
 うまそうなのに、紅花会は、こんな田舎料理を皇帝が召し上がれるかと料理人を叱り、食べようとする乾隆を「お腹にさわります」と止めて、乾隆の箸はへし折られてしまう。そして紅花会だけで食べる。そして皇帝の料理を料理人に催促している。紅花会は満腹して、ひもじかった話を始める。乾隆がいたたまれず、部屋に戻ることにすると、

「御膳の支度が調いましたらお迎えにあがります」

 二刻過ぎて、「羊肉と葱の辛味炒め」の匂いがする。御膳が整ったとの迎え。
「燕の巣とアヒル入り豆腐の煮込み」「羊肉と葱の辛味炒め」「筍と鶏肉炒め入り湯葉煮込み」「鶏と豚の千切り白菜のクリーム煮」「重ね揚げ餅」他にも十あまりの小皿。
 ところが、周綺(女の子)の抱いていた猫がその料理を食べて血を吐いて死ぬ。乾隆が料理を断ると、紅花会の連中はそれらの料理を食べてしまう。もちろん毒など入っていない。せっかくの据え膳を食い損ねる。
 こうして乾隆帝は、豪華料理を目の前にしながら、二日間なにも食べずに過ごすことになる。

 ここに並べられた料理、いくつかはわたしも食べたことがあるはず。えっ「鶏の唐揚げ」などいつでも食べられる。ですよね。

 過ぐる年、この本の翻訳者岡崎由美さんと寧波から杭州に旅をした。あとで、「あのとき出たレンコンにモチ米を詰めた料理は、乾隆帝が六和塔に閉じこめられたとき、出た料理の中にあったでしよう」と言われた。それはなんという料理だったのだろう。こう読んでみると、それらしい料理がない。「重ね揚げ餅」かなあ。それとも他にも十あまりの小皿の中にあったのか(そういう省略の仕方はしていないはず)。それともわたしの聞き間違いで別な料理だったか。
 金庸さんはこんなところにも蘊蓄を傾ける。なお袁枚も豆腐料理などで有名な歴史上の人物。
posted by たくせん(謫仙) at 10:05| Comment(4) | TrackBack(0) | 書剣恩仇録 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
「モチ米を詰めた砂糖漬けの蓮根」は、陳家洛の海寧の生家で出てきます。
2巻第8章「海潮」で乾隆帝に会った後にでてきます。
料理というより江南のおやつですね。
Posted by 八雲慶次郎 at 2009年02月15日 21:34
ああ、ありました。
P164
晴画が「モチ米を詰めた砂糖漬けの蓮根」持ってきて、陳家洛に食べさせ、そして髪を梳くシーン。
奴隷に慕われているお坊ちゃんの成長した姿です。
それにしても、すぐにここを指摘する八雲さん。さすが。
Posted by 謫仙 at 2009年02月16日 08:21
名前を聞くだけでも美味しそうな料理ばかりですよね!
「燕の巣とアヒル入り豆腐の煮込み」「筍と鶏肉炒め入り湯葉煮込み」「鶏と豚の千切り白菜のクリーム煮」あたりにとても心を惹かれます。

「モチ米を詰めた砂糖漬けの蓮根」は陳家洛思い出の料理でしたよね。
岡崎先生と本に出てくる料理を食べたなんて、羨ましいです!
Posted by 阿吉 at 2009年02月17日 18:32
阿吉さん。
岡崎先生の解説入りの料理、なかなか味わえるものではございません。(^。^))
金庸老師はふるさと近くの名物料理を並べたのでしょうか。雲南の椿の蘊蓄みたいで、読んでいて楽しくなります。
それを、こんな田舎料理を皇帝が食べるか、なんていいですね。傷を付けない懲らしめ方。もっとも皇帝は約束を守りませんでしたが。
Posted by 謫仙 at 2009年02月18日 14:52
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